はじめに

朝いちばんにChatworkを開き、次にLINEを見て、最後にSlackを開く。その巡回を1日に何度も繰り返しているのに、返し忘れが起きる。そんな経験はないでしょうか。

チャットツールが3つに分かれていると、未読を消す作業と、返すべき相手を選ぶ作業が混ざります。本記事では、未読の抽出から返信の下書き作成までをAIに任せ、決まった時刻に受け取る仕組みの作り方を解説します。スマートエイトは生成AI研修と開発受託で、社内の連絡業務を自動化する設計を手がけてきました。

結論を先に言います。返信漏れの正体は注意力の不足ではなく、返すべき相手を「探す作業」そのものです。AIに任せるべきは返信そのものの判断ではなく、未読から候補を抜き出して並べ替える工程です。判定条件の決め方は2章、ツールごとの取り方は3章で扱います。

返信漏れは探す作業で起きる|AIに任せる範囲を先に決める

なぜツールが分かれると漏れるのか?

原因は記憶力ではなく、情報が置かれている場所の数にあります。3つのツールを開いた時点で、頭の中には3本の別々のリストができます。

そのうえ未読の大半は、自分が返す必要のないものです。共有だけの投稿、他のメンバー宛のやり取り、通知だけの自動投稿が混ざります。返すべき数件を探すために、返さなくてよい数十件を毎回読み直す構造になっています。

漏れるのは、探し終える前に別の仕事が割り込むからです。巡回の回数を増やしても、探す作業そのものは減りません。

AIはどこまで担当できるのか?

AIが得意なのは「未読をすべて読んで、条件に合うものだけ抜く」工程です。人が疲れる部分と、AIが速い部分がちょうど重なります。

逆に言えば、AIが担当する範囲と、外れたときの渡し先を先に決めておく必要があります。電話の受付を自動化したAI電話で受付を自動化する方法|予約の確定まで人が出ない仕組みでも、同じ順序で設計しています。

スマートエイトのYouTubeチャンネルで公開した対談では、この工程を組んだ仕組みを実演しています。ゲストの経営者が挙げた業務のうち1つ目が、複数のチャットツールを巡回する連絡漏れチェックでした。

動画のなかでは、未読の抽出、返す必要があるかどうかの判定、そこまでの文脈を踏まえた返信の下書き作成までを、ひとつの仕組みが続けて処理しています。

なぜ送信まで任せないのか?

送信は人の手元に残します。理由は精度ではなく、取り消せない操作だからです。

個人情報保護委員会の令和6年度年次報告によれば、個人情報取扱事業者等からの漏えい等の報告は19,056件あり、原因の内訳では誤交付・誤送付が上位を占めています。宛先や添付を間違える事故は、人が手作業で送っている現在でも起き続けているわけです。

そこへ自動送信を足せば、間違いの発生源が1つ増えるだけです。AIが下書きまで作り、人は読んで送信ボタンを押す。この線引きは、長く動かす自動化ほど効いてきます。同じ考え方はAIエージェントの暴走対策|長く動くAIを安全に自動化する3つの関門でも整理しています。

判定条件は文章で先に決める|優先度は人が持っているロジックを写す

どんな条件を書けばよいのか?

条件は仕様書ではなく、ふだん頭の中でやっている選び方を文章にしたものです。技術的な書き方は要りません。

書く内容は3つに分かれます。ひとつは「自分が返すべきものは何か」。次に「返さなくてよいものはどれか」。最後に「どの順で並べるか」です。

3つ目を省くと、抜き出したリストが長いだけで判断が進みません。抜くだけでなく、並べ方まで決めておきます。

優先度は誰が決めるのか?

優先度の基準は、人がすでに持っています。動画のなかでも、顧客の優先順位と期限という2軸で判断していると話されていました。日程調整の連絡は、内容が軽くても早く返したほうがよい類のものです。

やることは、その基準を先に書き出す作業です。取引の段階、相手の立場、期限の有無といった条件ごとに、高・中・低のどれに当たるかを決めておきます。

人がつけている優先度のロジックを、そのままAIへの指示に写す。この工程を飛ばすと、AIは投稿の新しさや文字数といった見た目の情報で並べてしまいます。

下書きはどこまで作らせるのか?

下書きは「そのまま送れる状態」ではなく「読んで直せる状態」を目指します。完成度を上げるほど、人のチェックが甘くなるためです。

作らせる範囲は、相手の直前の発言に対する返答と、こちらが決めるべき事項の確認までです。金額、日程の確定、契約に関わる判断は、下書きの中に書かせず空欄のまま残します。

空欄が残っていれば、人は必ずそこを読みます。判断の入る箇所を意図的に未完成にしておくのが、下書きを安全に使うコツです。

*下書き:送信前の状態で保存された返信文。ここでは、AIが文脈を読んで用意し、人が修正してから送る前提の文面を指します。

ツールごとに取り方が変わる|APIで読めるものと画面操作しかないもの

Chatworkはどう取るのか?

Chatworkは公式のAPI*が用意されており、メッセージの一覧を取得できます。公式リファレンスによれば、1回の取得は最大100件で、「force」という項目を0に指定すると前回取得分からの差分だけが返ります。

差分で取れる点が、この用途にはよく合います。毎回すべてを読み直す必要がなく、前回の実行以降に増えた分だけを見に行けます。

同リファレンスには利用回数の制限も明記されており、超過するとエラーが返ります。1日に何度も回す設計にする前に、実行間隔を決めておくと安全です。

LINEはなぜAPIで読めないのか?

LINEは事情が異なります。Messaging APIの公式ドキュメントには、利用を始める手順として「まず、LINE公式アカウントを開設します」と書かれています。つまりAPIは事業者向けのLINE公式アカウントを前提としたもので、個人のLINEアカウントに届いたやり取りを読み出す用途には使えません。

仕事の連絡が個人のLINEに来ている場合、取れる手段はパソコンの画面を操作して読む方式になります。動画で実演されていた仕組みも、個人アカウントで使っているツールについては画面操作で情報を取る形をとっていました。

画面操作は、APIに比べて壊れやすい方式です。ツールの画面が変わると動かなくなります。まずAPIのあるツールから始め、画面操作は後から足すほうが、立ち上げでつまずきません。

ツール

取り方

前回以降だけ取れるか

立ち上げの順番

Chatwork

公式APIでメッセージ一覧を取得

取れる(force=0で差分)

最初に着手する

Slack

公式APIで履歴を取得

取れる(時刻で範囲指定)

Chatworkの次

LINE(個人アカウント)

パソコンの画面を操作して読む

取れない

最後に足す

Slackも公式のメッセージ履歴取得メソッドで、時刻を指定して範囲を絞れます。前回の実行時刻より後だけを読ませる書き方ができるため、Chatworkと同じ設計をそのまま使えます。

結果はどこで受け取るのか?

抽出したリストの置き場所は、ふだん見ている画面に合わせます。せっかく抽出しても、専用の画面を新しく開きに行く運用では続きません。

動画では、実行した画面に結果を出すだけでなく、Slackへも通知する形が紹介されていました。Chatworkへ通知する構成も同様に組めます。

朝いちばんに開くツールが決まっているなら、その1か所に集約します。3つのリストを1つにする作業が、この仕組みの本体です。

*API:ソフトウェア同士がデータをやり取りするための窓口。公開されていれば、画面を操作せずに情報を読み書きできます。

決まった時刻に自動で動かす|追加費用のかからない実行方法から始める

どの実行方法を選べばよいのか?

定期実行の手段は、パソコン上で動かす方式と、クラウド上で動かす方式に大きく分かれます。最初に選ぶなら、パソコン上で動かす方式が扱いやすいです。

macOSならlaunchd、WindowsならタスクスケジューラというOSスケジューラ*が標準で入っています。決まった時刻に処理を呼び出すだけなので、追加の費用はかかりません。

条件は、その時刻にパソコンが起動していることです。動画でも、パソコンを起動しておく必要がある代わりにコストはかからない、という整理で説明されていました。出社前に届いていてほしいなら、起動時刻から逆算して設定します。

何時に動かすのが適切か?

始業の直前が扱いやすい時刻です。動画のデモでは朝8時に実行し、その結果を通知する構成をとっていました。

1日に何度も回したくなりますが、最初は1回に絞ります。回数を増やすほど、届いたリストを見ない日が増えるためです。

回数には技術的な制約もあります。Slackの公式ドキュメントには、2025年5月29日以降にマーケットプレイス外で配布される新規アプリの履歴取得は1分あたり1回に制限される、と明記されています。自作の仕組みを短い間隔で回す前提の設計は、そもそも成り立ちにくいのが現状です。

朝の1回で運用が定着してから、昼の追加を検討します。判断の材料は届く回数ではなく、届いたリストを最後まで処理できた日数です。

最初の1週間は何を見るのか?

見るべきは削減できた時間ではなく、抽出の精度です。具体的には2つの数を数えます。

ひとつは「AIが拾わなかったのに、実際は返す必要があった連絡」の件数。もうひとつは「拾ったが返す必要のなかった連絡」の件数です。前者が出たときだけ、判定条件の文章を直します。

後者は多少多くても実害がありません。返さなくてよいものが数件混ざるコストより、返すべきものを落とすコストのほうがはるかに大きいからです。効果の数え方に迷う場合は、生成AIの費用対効果を測る4つの問い|OpenAI CFOの採点表の使い方も判断材料になります。

*OSスケジューラ:パソコンの基本ソフトに標準で備わる、決まった時刻に処理を実行する機能。macOSのlaunchd、Windowsのタスクスケジューラが該当します。

よくある質問|返信漏れ防止をAIに任せる前に

判定条件はどれくらいの分量が必要ですか?

最初はA4で1枚に収まる分量で足ります。返すべき相手の条件、返さなくてよい投稿の種類、優先度の3項目が書かれていれば動きます。

書き足すのは、拾い漏れが実際に起きたときだけにします。想像で条件を増やすと、どの記述が効いているのか分からなくなります。

会社のチャットにAIを繋いで問題はありませんか?

社内規程と契約条件の確認が先です。とくに顧客名や個人情報を含むやり取りを扱う場合、どの範囲まで外部のサービスへ渡してよいかを文書で決めておきます。

読み取りだけに限定し、書き込みや送信を行わない構成にすれば、確認すべき範囲は狭くなります。線引きを決めてから接続する、という順序が大切です。

返信の下書きは相手にAIだと分かりますか?

そのまま送ると分かる場合があります。文体が整いすぎている、相手の言い回しに合っていない、といった違和感が出るためです。

人が読んで直す前提であれば問題になりません。むしろ下書きは、文面を整えるためではなく、返信の抜けを防ぐために使うものと考えたほうが実態に合います。

うまくいかない場合、どこから疑えばよいですか?

まず抽出の条件を疑ってください。下書きの質が低いと感じる場面の多くは、そもそも拾う対象がずれています。

抽出が合っているのに下書きが使えない場合は、過去のやり取りをどこまで読ませているかを確認します。直前の1通だけを見て書かせると、経緯を外した文面になります。

さいごに

本記事では、返信漏れをAIで防ぐ方法として、未読の抽出、優先度づけ、下書き作成、決まった時刻の自動実行という4つの工程を解説しました。要点は、AIに任せるのは返信の判断ではなく探す作業であること、そして送信の一歩手前で人が止まる設計にすることの2点です。

複数のチャットツールを行き来していて、返し忘れが起きるたびに巡回の回数を増やしている。そうした状態にある方ほど、抽出の自動化は効きます。まずはAPIのあるツール1つ、朝1回の実行から試してみてください。

スマートエイトの生成AI研修では、自社の業務にあわせた判定条件の書き方と、どこまでを自動化してどこで人が確認するかの線引きを、実際の業務を題材に設計します。

詳細はお気軽にスマートエイト公式サービスページからお問い合わせください。貴社の状況に合わせた最適な進め方をご提案します。 ※生成AI研修資料/導入事例も無料ダウンロードいただけます。