はじめに

電話が鳴るたびに手が止まる、受付のためだけに人を置いている——その状態を変えたくてAI電話を調べても、実際の通話を確かめられる実例はまだ多くありません。

スマートエイトのYouTubeチャンネルで、AI電話が病院の受付を最後まで終えるデモを対談形式で公開しました。本記事では、そのデモで起きていることと、成立させている設計、自社で試す手順を解説します。スマートエイトは生成AI研修と開発受託で、問い合わせ対応と電話受付の自動化を設計してきました。

結論を先に言います。予約受付のように答えの形が決まっている電話は、AIだけで確定まで終わります。成立させているのはAIの賢さより、間違いを前提にした確認手順の設計です。設計の中身は2章で、自社に写す手順は4章で扱います。

受付電話はAIだけで予約確定まで終わる|対談デモで起きたこと

発熱外来の予約が、会話だけで確定する

デモの題材は病院の受付電話です。ゲストの会社が自社の受付電話に導入している仕組みを、一部を差し替えたうえで見せてもらいました。実際の通話は動画で聞けます。

発熱で来院したいという電話に、AIが発熱外来の受付時間と最短の空き枠を答えます。相手が了承すると氏名を聞いて復唱し、続けて電話番号を聞き、もう一度読み上げて確かめます。最後に日時と診療内容を伝えて通話を終え、予約がカレンダーに入ります。人は一度も出てきません。

全部の電話をAIに取らせない

構成は三段です。まず「ご予約の方は1を」というプッシュ操作で振り分け、そこで終わらない用件をAIが会話で受けます。そしてAIの権限を超える判断、たとえば症状の相談が来たら、その場で院内の人へ取り次ぎます。

会話しなくても済む用件は、会話させないほうが速く終わります。AIが受け持つのは、プッシュ操作では拾えず、人を出すほどでもない真ん中の帯です。

文字の問い合わせでも同じ形が動いている

スマートエイトがEC企業に入れている問い合わせボットも、同じ形で動いています。社内の情報を参照して回答を作り、そのまま顧客へ返します。人が入るのは、ボットが答えられなかった質問を引き取るときです。

電話と文字で共通しているのは、AIが答える範囲を先に決め、外れた質問の渡し先を決めてあることです。この2つが対になっていれば、途中に人のチェックを挟まずに顧客まで届けられます。

完結の鍵は確認手順の設計|相手には「はい」か「いいえ」だけ

聞き取る仕事と、確かめる仕事を分ける

デモのAIは、自分が理解した内容を読み上げ、相手には「はい」か「いいえ」だけを答えてもらいます。「090-1234-5678でお間違いないでしょうか」に対して、相手の返事は2択です。

氏名や番号を一度で正確に聞き取る作業は、相手の話し方や回線の状態に左右されます。読み上げた内容が合っているかの判定なら、答えは2つしかありません。ブレやすい仕事をAIから外し、ブレようのない仕事だけを残しています。

対談ではこれを、100回やって100回同じ結果になる仕組みと、毎回少しずつ結果が違う仕組みの使い分けとして説明していました。守らなければならない線は前者に寄せ、会話の柔らかさは後者に任せます。

人名は一文字ずつ確かめる

対談で挙がった弱点は人名でした。Googleの研究チームによる固有名詞の認識精度に関する論文も、固有名詞は学習中にまれにしか現れず、より一般的な語と発音が似ることがあると指摘しています。同論文の改善手法でも、精度の向上は相対的に数%にとどまります。つまり人名の聞き取りにくさは、当面つきあう前提の性質です。

対策には、コールセンターで人が昔からやってきた方法が使われていました。名前を一文字ずつ、身近な単語とその頭文字をセットにして確かめる手順です。人がミスを防いできたやり方を、そのままAIの手順に書き写しています。

最終確認だけプッシュ操作に渡す手もある

さらに厳格にしたい場合は、最終確認の1点だけを電話機のプッシュ操作に戻します。会話は柔らかいまま、絶対に間違えられない確定の操作だけが、100回やって100回同じ結果になる側に乗ります。

このように、AI電話の品質は会話の自然さより、どこを会話の外に出すかで決まります。導入を検討するときも、デモの声の自然さより、確認手順がどう設計されているかを見てください。

部品は既製でそろう|時間を見るべきは応対の言語化

電話とAIをつなぐサービスは公開されている

デモの構成は、電話とインターネットをつなぐ基盤にTwilio、音声の会話にOpenAIのRealtime API、その間に自社のプログラムを置く三層でした。「いつ電話を受けるか」「カレンダーを確認するか」といった業務の流れは、プロンプトとして日本語で書きます。

費用の目安も公開されています。音声AIの接続機能はTwilioが1分あたり0.07ドルで提供しており、通話回線の費用は別にかかります。仕組みそのものは、もう特別なものではありません。

難しいのは「いい応対」を書き下す工程

対談で語られた難所は、サーバーの構築ではありませんでした。開発チームがあればそこは複雑ではなく、時間がかかるのは「どういう応対をするコールセンターが、いいコールセンターなのか」をプロンプトに書き下すところだといいます。

これは自社の応対を言語化する作業です。ベテランが電話口で自然にやっている確認や言い回しを、文字にして初めてAIに渡せます。導入の計画では、開発よりもこの工程に時間を見てください。

運用が始まってからチューニングが続く

デモの仕組みも、動かして終わりにはなっていません。実際の問い合わせを聞き、想定外の聞かれ方やノイズを拾って、応対の指示を直し続けていると対談で語られていました。

最初の設計で全部を当てにいくより、答えられる範囲を狭く始めて、録音を聞きながら広げるほうが安全に運びます。範囲の広げ方は、次章の仕分けがそのまま使えます。

自社で試す手順|業務時間外の一次受付から

電話の用件上位10件に2つの印を付ける

最初の作業は、直近3か月の電話の用件を数え、多い順に10件並べることです。表計算ソフトで終わります。並べた10件に、2つの印を付けてください。答えの形が決まっているか。間違えたとき、取り消せるか。

用件

答えの形

間違えたとき

受け持ち

予約の受付・変更

決まっている

取り消せる

AI

営業時間・場所の案内

決まっている

取り消せる

AI

料金の目安の案内

決まっている

取り消せる

AI

キャンセル料の判断

条件で決まる

取り消しにくい

AIが条件を案内し、確定は人

症状・体調の相談

相手による

クレームの一次対応

相手による

両方に丸が付いた用件が、AIに渡す最初の候補です。デモの予約受付は、まさにこの型でした。

口頭で教えている受付手順を3つ書き出す

次に、その用件の受付手順を文字にします。項目は3つで足ります。よくある聞かれ方、答え、そして答えられないときに誰へ回すか。新人に口頭で教えている言葉のままで構いません。

AIに任せるとは、判断の基準を渡すことです。デモが成立していたのも、受付の手順が先に確定していたからでした。うまくいった応対を記録として残す方法は画面録画でAIに業務を教える手順でも扱っています。

業務時間外の一次受付から始める

最初の適用先としては、業務時間外の一次受付を勧めます。日中は人が張れていても、24時間は張れない会社がほとんどです。その時間帯の電話をAIが受けるなら、取りこぼしていた分がそのまま上積みになり、既存の応対品質とも比べられません。

効果は、削減時間ではなく「先週AIだけで確定した予約が何件あったか」の実数で数えてください。数え方の考え方は生成AIの費用対効果を測る4つの問いにまとめてあります。

よくある質問|AI電話の導入で迷いやすい点

電話のうち何割くらいを任せられますか

割合は用件の構成で決まるため、他社の数字より自社の上位10件から見積もるのが確実です。参考値として、文字の問い合わせでは、Zendeskが委託したForrester の分析がAIの自動解決率を1年目10%、2年目20%、3年目30%と置き、個別企業の実績で35%から56%を挙げています。対話AIを提供するFinは12,000社以上の平均で76%と公表していますが、解決の定義は非公開です。いずれも提供元の数字として割り引いて読んでください。

接客の質を売りにしている店でも使えますか

人が対応すること自体に価値が生まれる場面は、AI電話に向きません。対談でも、高級感のある体験を売る事業に差し込むのはリスクがあると話していました。その場合も、営業時間外の一次受付や道案内のような、体験の外側にある用件から切り出す手はあります。

チャットの自動返信とはどう違いますか

フォームの自動返信は、受付完了の定型文を確実に返す仕組みです。本記事のAI電話は、用件を聞き取って予約の確定まで進める仕組みで、設計の考え方が違います。文字側の自動返信を整えたい場合はお問い合わせ自動返信をAIで作成する手順を先に読んでください。

さいごに

本記事では、AI電話が病院の受付を予約確定まで終えるデモと、それを成立させている確認手順の設計、自社で試す手順を見てきました。鍵はAIの賢さより、相手に「はい」か「いいえ」だけを答えてもらう確認の固定と、答えられない用件の渡し先を先に決めておくことです。

電話対応の負荷を下げたい企業は、まず直近3か月の電話の用件を数えて上位10件を並べ、2つの印を付けるところから始めてください。必要なのは表計算ソフトだけです。

スマートエイトの生成AI研修では、受講者自身の実業務を題材に、この仕分けと応対の言語化をハンズオン形式で扱います。企業規模・業種に合わせて設計できます。

詳細はお気軽にスマートエイト公式サービスページからお問い合わせください。貴社の状況に合わせた最適な進め方をご提案します。 ※生成AI研修資料/導入事例も無料ダウンロードいただけます。