はじめに
広告動画を差し替えたいのに、外注の見積もりと納期を思い出して止まる。そんな場面はないでしょうか。生成AIで作ってみたものの、シーンごとに人物の顔が変わってしまい、使いものにならなかったという声もよく聞きます。
広告動画の内製でつまずく原因は、ツール選びではなく工程の組み方にあります。本記事では、台本から編集までを5つの工程に分け、同じ人物のまま最後まで仕上げる進め方を解説します。スマートエイトは広告・制作領域のAI活用を、研修と開発受託の両面で支援してきました。
結論を先に言います。1枚のキャラクター画像からいきなり動画を作ると、人物は必ず崩れます。動画にする前に、同じ人物のシーン別の静止画をひととおり作る工程を挟むことが要点です。工程の全体像は2章、一貫性の保ち方は3章で扱います。
実際の制作の様子は動画でも公開しています。
なお、AIで広告動画をどこまで作れるかという可否の話はGeminiが"分身"で動画を作る時代|広告動画の内製はどこまで可能かで扱っています。本記事は、作ると決めた後の手順に絞ります。
内製が議題になる理由|差し替えの頻度が外注と噛み合わない
なぜ広告動画は作り直しが必要なのか?
同じ素材を同じ人に見せ続けると、反応は落ちます。運用型の広告では、クリエイティブの入れ替えが前提の運用になります。
つまり広告動画は、一度作って終わる制作物ではありません。検証しては差し替える消耗品に近い扱いになります。
ここが、映像制作の一般的な進め方と噛み合いません。1本を時間をかけて仕上げる体制と、毎週差し替える運用は前提が違います。
外注のどこが合わないのか?
費用よりも先に効くのは納期です。差し替えの判断から公開までに数週間かかると、検証のサイクルがその期間に縛られます。
素材を1つ変えるたびに見積もりと確認のやり取りが発生する点も、回数が増えるほど負担になります。制作の品質ではなく、回転数の問題です。
そのため内製の対象になるのは、まず検証用の量産です。ブランドの中心に置く1本を内製に切り替える話ではありません。同じ考え方は静止画でも成り立ち、広告バナーAI導入で制作工数を削減|広告代理店向け実践ガイドで扱っています。
何がAIに置き換わり、何が残るのか?
置き換わるのは素材の生成です。人物の画像、シーンの映像、ナレーションの音声は、生成で用意できる範囲に入ってきました。
残るのは2つあります。ひとつは構成の判断で、どの順序で見せれば反応が取れるかは商材ごとに違います。もうひとつは仕上げの編集で、尺の合わせ方や間の取り方が完成度を分けます。
素材を作って、後から繋いで整える。この分業に落とし込めるかどうかが、内製が回るかどうかの分かれ目になります。
5つの工程に分ける|いきなり動画を作らせない
どんな順番で進めるのか?
工程は5つです。前提整理、台本、キャラクター、シーン別の素材、仕上げの順で進みます。
# | 工程 | やること | この工程の完成条件 |
|---|---|---|---|
1 | 前提整理 | 商材、ターゲット、訴求、尺、掲載面を書き出す | 判断に必要な条件が1枚に収まっている |
2 | 台本 | 構成を指定して、絵とナレーションを対で作る | シーンごとに「何を映すか」と「何を言うか」が揃っている |
3 | キャラクター | 登場人物の基準となる画像を1枚決める | 他のシーンの参照元にできる画像がある |
4 | シーン別の素材 | 基準画像をもとにシーン別の静止画を作り、動画化する | 全シーンで同じ人物に見える |
5 | 仕上げ | ナレーションを重ね、尺を合わせて統合する | 通しで見て違和感がない |
3の工程を飛ばして、いきなり動画を作らせるのが失敗の典型です。順序そのものが品質を決めます。
台本はAIにどう作らせるのか?
構成を先に渡します。何も指定せずにシーンを作らせると、どの商材でも似た一般的な流れが返ってきます。
たとえば問題提起、解決、ベネフィット、商品の訴求、行動喚起という並びを指示に含めておきます。構成は商材と狙いによって変わるため、ここは人が決める部分です。
出力の形も指定します。シーンごとに「どんな絵か」と「どんなナレーションか」を対にした絵コンテ*の形にしておくと、次の工程でそのまま使えます。
なぜ工程を細かく分けるのか?
やり直しの範囲を小さくするためです。通しで一気に作ると、1か所の違和感を直すために全部を作り直す羽目になります。
工程を分けておけば、崩れたシーンの静止画だけを作り直せます。前の工程の成果物が残っているため、そこから再開できます。
生成の回数が増える点は気になりますが、作り直しの総量はむしろ減ります。細かく刻むほど、後戻りは浅くなっていきます。
*絵コンテ:映像の設計図。シーンごとの画面の内容とセリフを並べたもので、撮影や生成の前に全体の流れを確認するために使います。
人物が別人になるのを防ぐ|シーン別の静止画を先に作る
なぜ別人になるのか?
生成のたびに、その画像が独立して作られるためです。同じ指示文を使っても、顔立ちや髪型、服装は少しずつ変わります。
シーンごとに動画を生成すると、この差がそのまま出ます。通しで見たときに「途中で人が入れ替わった」という印象になり、広告としては使えません。
指示文を詳しく書き込んでも、この問題は解決しません。文章だけで顔を固定するのは無理があります。
どうやって同じ人物を保つのか?
基準となる画像を1枚決め、それを参照させながら他のシーンを作ります。文章ではなく画像で人物を指定する方法です。
OpenAIの画像生成ガイドによれば、画像編集のエンドポイントでは gpt-image-2 を使い、参照画像はウェブ上のURL、Base64形式のデータ、あらかじめアップロードしたファイルのIDという3つの方法で渡せます。複数枚を組み合わせて渡す方法も用意されています。
順番が大切です。基準画像から、必要なシーンぶんの静止画をまず作り切ります。そのうえで、各静止画を動画化します。動画から動画へ繋ぐのではなく、静止画の段階で人物を揃えてしまうわけです。
どのツールを選べばよいのか?
同じ指示文を複数のツールに入れて、出てきた画像を並べて選ぶのが確実です。人物の雰囲気は、ツールごとにはっきり違います。
選ぶ基準は好みではなく、商材との相性です。生活感のある日常のシーンが要るのか、質感や高級感が要るのかで、向くツールは変わります。
一度決めたら、その動画のなかでは変えません。工程3で作った基準画像を最後まで使い続けます。
*参照画像:生成AIに「この人物・この雰囲気で」と指定するために渡す元の画像。文章の指示だけでは揃わない見た目を固定する用途に使います。
ナレーションは映像と分ける|口の動きに合わせない
なぜ口の動きに合わせないのか?
登場人物に喋らせて口の動きを音声に合わせる処理は、手間と費用が跳ね上がります。自然に見せるには手作業の修正が必要になり、量産する前提と噛み合いません。
広告動画では、人物が正面で喋る必要はほとんどありません。映像は商品と生活のシーン、音声はナレーションという分業で成立します。
まず映像を作り、別にナレーションを作り、最後に重ねる。この作り方であれば、音声の差し替えも映像を作り直さずに行えます。
音声はどう作るのか?
読み上げの音声は、生成AIで用意できます。GoogleのGemini API 音声生成ガイドによれば、対応モデルは単一の話者と複数の話者の両方に対応し、複数話者の場合は最大2人まで指定できます。出力は24000Hz、16ビット、モノラルの音声です。
ツールによって声の質感の傾向が異なります。会話調に強いものを使うと、ナレーション用途では砕けすぎた印象になりがちです。同じ原稿を複数のツールで読み上げさせ、映像に乗せた状態で比べてください。
原稿の読み上げでは、句読点と改行が間の取り方に影響します。文字数を尺に合わせるより先に、読ませたい間を原稿の形で作っておくと調整が楽になります。
公開前に何を確認するのか?
確認は2種類あります。ひとつは仕上がり、もうひとつは表示の扱いです。
仕上がりでは、人物の一貫性と細部の違和感を通しで確かめます。ここは人の目とAIの両方でチェックします。生成した本人は見慣れてしまうため、作っていない人に1回見てもらうと崩れに気づけます。
表示については、掲載する媒体のルールを確認してください。Metaの透明性センターのAIコンテンツのラベル表示に関する説明によれば、2024年5月から動画・音声・画像に「AI Info」というラベルを付ける運用が始まっており、業界標準のAI画像の指標を検出した場合と、投稿者が自己申告した場合にラベルが付きます。媒体ごとに扱いが違うため、出稿先の最新の規定を出す前に確認してください。
*リップシンク:映像内の人物の口の動きを、音声に合わせて同期させる処理。自然に見せるには調整の手間がかかります。
よくある質問|AIで広告動画を内製する前に
何本くらいから内製の意味が出ますか?
月に数本以上の差し替えが発生するなら検討する価値があります。年に1本の周年動画のような制作は、外注のほうが向いています。
判断の軸は総額ではなく頻度です。同じ品質のものを何度作り直すかで決めてください。
生成した人物を実在の人に似せてもよいですか?
避けてください。特定の人物に似た人物像を広告に使うと、肖像やパブリシティに関する問題が生じます。
参照画像に実在の人物の写真を使う場合も同様です。素材の出どころと、その素材をAIに入れてよいかの許諾を必ず確認してください。
完成した動画をそのまま出稿してよいですか?
人の目を通してから出稿してください。人物の一貫性、商品の見え方、ナレーションと映像のずれは、通しで見ないと分かりません。
加えて、商材によっては表現の規制があります。効能や効果に触れる商材では、法務のチェックを工程に組み込みます。
社内に映像の経験者がいなくても回りますか?
素材の生成までは回ります。詰まるのは仕上げの編集で、尺合わせと間の取り方には慣れが要ります。
最初は編集だけを外部に任せ、素材の生成を社内で持つ形から始めるのが現実的です。回転数が上がるのは素材側なので、そこを内製にするだけでも効果は出ます。
さいごに
本記事では、AIで広告動画を内製する方法として、5つの工程への分割、基準画像を使った人物の一貫性の保ち方、ナレーションと映像を分ける判断、公開前の確認事項を解説しました。要点は、いきなり動画を作らせず、シーン別の静止画で人物を揃えてから動画化することの1点に集約されます。
広告の差し替え頻度が上がっているのに制作が追いつかない。そうした状態にある企業ほど、素材の生成を社内に持つ効果は大きくなります。まずは1本、5つの工程どおりに作ってみてください。投資判断や体制づくりまで含めた全体像は広告代理店 AI 導入を成功に導く戦略|投資判断から現場定着まで徹底ガイドで整理しています。
スマートエイトの生成AI研修では、自社の商材を題材に、台本の作り方から素材の生成、確認の観点までを一気通貫で扱います。企業規模・業種に合わせた構成が可能です。
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