「AIで作ったって分かる資料」を、クライアントはどう受け取るか。合同会社COCOTTOの多田脩二さんは、そこに自分の価値を見ている。一人で戦略設計から実行までを担うコンサルタントで、いちばん時間を使っている業務はクライアントへのヒアリング。準備からまとめまでを含めると月30時間ほどになる。それでも、そこはAIに渡していない。

お話を伺った人

項目

内容

会社名

合同会社COCOTTO

話し手

多田 脩二さん

聞き手

小坂井 聖也(スマートエイト)

事業内容

事業コンサルティング、マーケティングコンサルティング、業務設計

今回の対象業務

クライアントへのヒアリングと資料作成

独立の経緯|「サラリーマンの稼ぎだけではできない」

小坂井

まず、独立の経緯を教えてください。

多田さん

親の面倒を見るために、サラリーマンの稼ぎだけではできないというところで独立した、というのが大きな理由です。20歳のときに親が離婚しました。母は専業主婦で収入がなく、離婚のときに受け取ったのも200万か300万ぐらいです。この先どうしていくかというところで、とりあえずは一緒に住んで、僕がベネッセで稼いだお金で家賃や生活費を工面していました。

多田さん

当時の自分の給与水準では、結婚も一人暮らしも難しい。無理だなと思ったので、年齢に関係なく実力で稼げる環境を求めて、リクルートへ転職したのが大きな理由です。年収は上がったんですが、会社の給料1本では、実家と自分の家、2つの分の家賃と生活費を工面するのは無理でした。それで会社を作って副業を始めた、というのがまずスタートです。

多田さん

副業ができるリクルートの環境だったからこそ、クリエイティブの制作から始まって、今のコンサルのところまで、自分の時給を上げていくような上流工程に進んでいきました。もうこれである程度は、サラリーマンじゃなくてこっちに振り切ったほうがより稼げるな、という判断になったから独立した、というのが背景です。

いまの仕事と強み|「下流をやってきたからこそ上流をやれる」

小坂井

いまはコンサルティングや業務設計といった上流の仕事が中心とのことですが、そこに至った背景を教えてください。

多田さん

クリエイティブとか実行の、下流のところをやっていたからこそ、その大変さと、それで稼いでいくことの大変さをすごく学びました。当時は全然AIとかなかったけど、代替されていく未来もなんとなく予想ができたので、早めにそこから抜け出したというのがあります。3年前、4年前ぐらいですね。

コンサルタントには「絵に描いた餅」という批判がついて回る。多田さんはそこを、経歴そのもので埋めている。

多田さん

高いお金を払って結局意味がなかった、実行まで行かなかったじゃないか、という話はよくあります。そこの部分も、絵を描いたうえで自分で実行までフォローできるというのはすごく強みだと思っています。実際にサイトを作るのもクリエイティブを作るのもそうだし、イベントを作成する、企画するのもそう。下流をやってきたからこそ上流をやれるし、さらに下流も自分でフォローできる。自分で絵を描いて動かせるというところが、他のコンサルタントとは結構違ったりします。

小坂井

今のお仕事は、どんなところに面白みを感じますか?

多田さん

経営陣の方々とコミュニケーションするので、基本的には年上で、自分よりいろいろ経験豊富な方々。ピリッとしたコミュニケーションの中でやることが多くなりました。プレッシャーでもあるんですけど、程よい緊張感でいられるというところでは、クリエイティブとはまた違った楽しさがあります。

多田さん

もう一つは、戦略を立てていくところがロジカルなことですね。会社の売上がこういう目標だから、その目標に対してブレイクダウンしていって、KGI・KPI、アクションのKPIというところまで因数分解して構造化していく。特性的に合理的に考えることが好きなので、外資のコンサル出身ではなかったけど、過去の自分の特性を活かして動けていたなというのがあります。

小坂井

マーケのコンサルとコスト削減の業務コンサルは、今はどちらに重きや楽しさを感じますか?

多田さん

いまで言うとコストを下げるほうが楽しいですね。既存で顕在化した問題、コストがかかりすぎているとか、そういうのを解消してあげるほうが楽しい。問題が好き、みたいな感じです。

多田さん

あとは、成果が分かりやすいというのもあります。たとえば外注費が3000万かかっているとして、それを半分にできれば、1500万削減したという成果になる。10時間かかったものが5時間になった、とか。問題が起きているということは、それを定量的に問題視できる状態であるから、コミットした成果が分かりやすい。目の前で困っているから、それを直してあげたり改善してあげることが、会社にとっていい方向に向かうのに直結する感じですね。

いちばん時間を使う業務|「一次情報は人からでしか得られない」

小坂井

実務の話に移ります。直近1ヶ月で、いちばん時間を使っている業務は何ですか?

多田さん

クライアントへの、現状把握のヒアリングを結構やっています。背景とか実態をちゃんと捉えないと、何が問題か、この問題が何で起きているのかが分からないからです。一次情報はやっぱり人からでしか得られない。世の中の情報からは仮説は立てられますが、会社特有、その担当者特有のことがあります。そのヒアリングに、多分いちばん時間をかけています。

小坂井

それは月あたり、どれくらいかかりますか?

多田さん

ヒアリングをするための準備と、ヒアリング時間と、それをまとめていく分。ヒアリング関連の工数で言うと、多分月に30ぐらいは使っているんじゃないですかね。ヒアリング単体だと10何時間なのか20時間ぐらいなのか、だけど、その前後の工程を入れると30時間ぐらいいっているような気がします。多い月はもっといくんですけど、30時間ぐらいがベースかな。

多田さん

1時間のミーティングだとしても、どういう時間配分でどういう内容を聞こうかという質問項目を考えて、それをどうアウトプットにしようか、というところまで踏まえると、そうなります。

小坂井

叩きはAIで作れても、そこから意味のあるヒアリングにするための質問づくりに時間がかかる、ということですか?

多田さん

初手はあんまりAIを使わないというのが実態です。ヒアリングするためのコンテキストみたいなのをAIに読み込ませないと、多分相当ちゃんとした質問が出てこない。的を射た質問が出てこなくて、中後半ぐらいのまとめる作業ではヒアリング関連でもAIを使うけど、前半ではあんまり使わないですね。

小坂井

ヒアリング以外で、時間を使っている業務はありますか?

多田さん

企画書を作る時間は多いですね。提案書というよりは、やっているプロジェクトの企画とかプロジェクト資料をまとめたりする時間が結構占めているかもしれない。だいたいみんな資料を作るのを嫌がるし、苦手だったり時間がかかったりするので、だいたい依頼されることは多くて。みんながミーティングでガチャガチャ言ったことをパッとまとめて1個にしてあげたり、いまのプロジェクトの概要をまとめてあげたり。ある意味、僕がAIみたいな役割なんですけど、そんなことをやってあげることは結構ありますね。

AIの使いどころ|「最初に投げると、いいものが出てこない」

小坂井

資料作成は意外とAI化が難しい部分だと思うのですが、どのあたりに使われていますか?

多田さん

失敗談込みで言うと、資料作成をさらにAIでパッと作らせたりまとめさせたりすることを最初にしたんですが、やっぱり自分が意図しているような形のアウトプットとして出てこない。それは資料の中身もそうだし、デザインもそう。いまのAIのレベルで言うと、最初に投げちゃうと、それでずっとラリーしてもいいものが出てこないなというのが現状で感じているので、基本的には自分で最初に作りに行きます。手動でですね。

多田さん

それを客観的にフィードバックさせる。「これを客観的に見て100点満点で評価してください」とか、「垂直思考・水平思考で深掘りしてください」「違うアイデアを出してください」とか。自分の資料を評価させるサポーターとして使っていることが多いです。

AIが作った資料がどこまでそのまま使えるのかは、実際に測った記事もある。

小坂井

そのフィードバックは、どれくらい当てになりますか?

多田さん

割かし当てになっている感覚はあります。論理構造としてこういう観点が抜けています、とか、クライアントからこういう指摘が入る可能性があります、みたいなところも指摘してくれます。自分でやるとどうしても虫の目になりすぎているから、一歩二歩引いてフィードバックをくれると「確かに」となる。

多田さん

社会人でいうと、上司や先輩に自分が作ったものをチェックしてもらう工程にあたるけど、それが一瞬で返ってくるし、ネチネチしたコミュニケーションもない。

小坂井

デザインの部分は、まだ厳しいですか?

多田さん

厳しいですね。最近ちょっとマシになってきている感覚はあるけど、AIで作ったって分かるというか。これは明らかにAIで作ったでしょう、というデザインのトーンや見せ方は、絶対にあると思っています。

多田さん

そこがクライアントからすると、別にAIを使うことは悪いことじゃないけど、AIで楽してやってきたなという感じで受け取られるとマイナスな印象になる。だったらオリジナル感をちゃんと出していったほうがいい。他の人がAIで出してくる資料が多くなればなるほど、オリジナル感のほうが、自分にお願いする価値が出てくるところかなと。

小坂井

他に、小さい作業でもいいので、AIを使って本当に楽になったものはありますか?

多田さん

フォーマット系の作業ですね。企画書でも書くべき項目が決まっているものとか、ルールが決まっている手作業でやっていたものは、ある程度速く出せます。それが完成案としないとしても、その場でミーティングとかでパパッと裏側で作って、こんな感じのイメージで、とすり合わせるときに結構使える。言葉だけでのすり合わせではなくて、実際にその場でアウトプットのイメージを作って擦り合わせる。そこには結構使っていますね。

小坂井

議事録や資料作成以外の、考える部分はどうですか。数字や戦略を考えるところで、AIは使いますか?

多田さん

壁打ちはします。「この戦略の弱点を指摘してください」とか。戦略を考えたときに、それをボードメンバーや役員に説明することになるから、そのときに絶対に指摘されることを潰しておくという意味で使っています。下書きには使わなくて、あくまで自分で考えて、その弱点を炙り出すために使う。

多田さん

その会社の2期目、3期目みたいな形で更新していくようになったら、最初からAIで「昨年度の内容を踏まえてちょっと考えたいんだけど」という話で一回始めます。

AIと人の棲み分け|「僕の頭の中にしかない情報がある」

多田さんのAIの使い方は、業務ごとにかなりはっきり分かれていた。整理すると、線を引いている基準は一つに見える。その仕事のコンテキストがどこにあるか、である。

使い方

対象

理由

使う

議事録・要件のまとめ

材料が出そろっている。人がやるより作業効率がいい

使う

フォーマット系の作業

書くべき項目やルールが決まっている=判断が外部化済み

使う

自分が作った資料へのフィードバック

客観の視点は自分からは出ない

使う

戦略の弱点出し(壁打ち)

指摘される点を先に潰すのが目的で、案そのものは自分で作る

使わない

ヒアリングの設計(初手)

会社特有・担当者特有の一次情報がまだ手元にない

使わない

資料の初稿・デザイン

自分の意図した形で出てこない。オリジナル感が価値そのもの

多田さん

ネットを探してもない、会社特有の一次情報やコンテキストは、やっぱりヒアリングで聞いてAIに伝えていかなきゃいけない。それをやればいいんですが、めちゃめちゃ細かく言うと、僕の頭の中にしかない情報とか人間関係とかもあったりします。だったら最初は自分でやったほうが全然いい。そんなに10時間とかかけているわけじゃなくて、最初に粗く作るところだけなら、30分1時間ぐらいでバーっと集中してテキストベースで作っちゃうので、そこは人がやったほうが早いかなという感覚です。

小坂井

何でもAIでやろうとしがちな時代ですが、情報が溜まるまでは人が考えたほうが実は早い。この住み分けは、たしかにありそうです。

企業ごとの運用|「溜まってくると、最初から任せられる」

線は一度引いたら固定、ではない。コンテキストが溜まるにつれて動いていく。

多田さん

Claudeを主に使っていますが、自分の情報をちゃんとコネクトしたり、プロジェクトのフォルダで連携させて、どんな感じでやってきたかというところを企業ごとにまとめています。それがある程度溜まってくると、最初から任せても大丈夫かなという企業さんもあります。

多田さん

Claudeのローカルフォルダを一個作って、その中に企業フォルダをパパッと作って、企業フォルダごとにルールのMDを作ったり。あとは必要な情報があればインプットとアウトプットのフォルダを2つ作っておいて、インプットはここの情報を元にしてください、アウトプットはこっちのフォルダで、プロジェクトごとにしてくださいという指示をやっています。

小坂井

特に使っているAIツールや、Claudeの中の機能があれば教えてください。

多田さん

自分自身で使うのは、Claudeのチャット、Cowork、Codeをそれぞれ用途で分けて使い分けているので、これというわけではないけど、主に使うのはCoworkかCodeかなという感じですね。理由は、プロジェクトフォルダを指定して、インプットとか作業をさせることができるからです。チャットではできない、そこが結構利点かなというところです。

多田さん

あとClaudeで使っているところで言うと、自分がやるような作業やフィードバックをプロジェクト化して、相手の会社やチームに共有することは結構しています。プロジェクトを作ってあげて、そこで資料を出せば、それっぽくフィードバックしてくれる。相手のコスト削減の文脈で入っているところだと、契約書の自動化みたいなものをプロジェクトファイルとして作って渡して、今後それやってね、みたいな。

小坂井

自分の分身AIを相手に渡すのは、かなり汎用的に使えそうですね。作るときは、どんな観点を大事にされていますか?

多田さん

ベースは、Claudeを使っている中で「あなたにフィードバックしたい、よくフィードバックする内容を整理して」という感じで、まず洗い出させる。そうすると、自分がどういうフィードバックをしているかというルールは、それである程度作れたりします。

多田さん

あとは自分自身がよく意識している部分ですね。現状(As-Is)とあるべき姿(To-Be)をちゃんと描いた上で、そのギャップを埋めるところが課題解決の打ち手になるよね、というところとか、構造的に分かりやすくまとめるというところはすごく意識しているので、自分が大事にしている観点をプラスして入れたりします。

多田さん

あとは相手によりますが、厳しく言われるのが好きな人だったら厳しめの返信にしてもらう。そうでなければ、ダメ出しじゃなくて「より良くなるためにはこうしたほうがいいのでは」というニュアンスになるように返してもらう。全部ダメじゃなくて、ここはすごくいいよ、ただもっとよくするためにはこの観点で整理するとより分かりやすいよね、と返してもらえるようにしている感じです。

空いた時間の使い道|「人間のキャパシティは変わらない」

小坂井

AIで空いた時間は、何に使われていますか?

多田さん

最初は、空いた時間をさらに自分のビジネスのために使おうという思いで、実際に空いた時間で違う仕事を取って入れたりしていた時期はあったんですけど、いまはしていません。

多田さん

なぜかというと、AIによって効率化したり楽になったりで抱えられるものが増えたとしても、やっぱり人間のキャパシティは変わらないと思っているからです。案件が増えると心理的負担が増えるし、コミュニケーションする先も増えます。空いた時間で仕事を増やすとか稼ぎにつなげようとすると、他の会社は違うかもしれないけど、僕はちょっと気持ちよくないなと思っています。

多田さん

なので空いた時間は、サウナに行くとか、漫画を見たりドラマを見たり。作業が楽になった、でも稼ぎは変わっていない、でも自分の生活の中に自分が使える時間がより増えて、人が行けないような時間にサウナに行ったり漫画を見たりできる。自分の時間を増やすことができることで、幸せな気分が増えたという感覚です。リフレッシュが、さらに仕事をする上でも大事だと思っています。

小坂井

1案件を増やせるようになっても、コミュニケーションや心理的負担のキャパは増えていない。結局そちらで消耗してしまう、ということですね。

一人で受けられる案件数の上限を、多田さんはコンサルタントの定義の問題として話した。

多田さん

外資のコンサルだと、ディレクター、シニアマネージャー、ジュニアのスタッフと、3〜4人ぐらいで入っていたりするんですよね。それを基本的に一人でやっていたりするから、確かに単価は高いけど、別に楽なわけではない。10とか20の案件ができるかというと、僕はできないと思っています。

多田さん

それだけの数をこなしている人がいるとしたら、助言を中心にした顧問的な関わり方だと思います。それが求められる場面もありますが、僕がやりたいコンサルティングとは役割が違う。だから、いまの自分のキャパシティでちゃんと受けられる範囲でとどめています。

今後AI化したいこと|「ドラえもんというBotを作っています」

小坂井

普段は作業系をどうAI化するかという観点で見ることが多いので、上流の思考系の人がどうAIを選んで働いているのか、すごく勉強になりました。

小坂井

最後に、今後AI化させたいことはありますか?

多田さん

すでにやっている部分もあるんですが、自分専用のメンター、コーチと言ったらいいのか。そういうふうに一部作ってはいるんですけど、AIをより活用していきたいなと。

多田さん

今後の人生において、5年後10年後どうやっていくかという相談って、居酒屋で飲みながらするかもしれないけど、そういうのをAIと日々できるようにしていきたいと思っています。僕はドラえもんっていうBotを作って、そういう相談相手にしています。

まとめ|AIに任せる線は「コンテキストがどこにあるか」で決まる

多田さんの話で一貫していたのは、AIに任せるかどうかをそのコンテキストが手元にあるかで決めている点だった。ネットで調べられる範囲はAIが持っている。一方で、会社特有の事情や担当者の温度は、ヒアリングで聞き出すまでどこにも存在しない。だから初手のヒアリング設計には使わず、材料が出そろった議事録やまとめには使う。

資料も同じで、先にAIへ投げるのではなく、自分で粗く作ってからAIに評価させる。ただしこの線は固定ではない。企業ごとにコンテキストを溜めていくと、任せられる範囲は少しずつ前へ動く。

どの業務から手を付けるかで迷っている場合は、中小企業のAI導入は何から始めるかも参考になる。

自社の業務でどこまでAIに任せられるか、どこから人が判断すべきか。線引きに迷っている方は、まずは無料相談から気軽にご相談ください。