はじめに

生成AIに資料を作らせたものの、直しに時間がかかって結局まとめて自分で書き直した経験はないでしょうか。「AIの資料は手直しが要る」という話はよく聞きますが、どれくらい要るのかを数字で見たことがある人は少ないはずです。

本記事では、2026年8月10日にOpenAIが公開した事例のなかにある実測値をもとに、AIが作った資料の歩留まりと、人が見るべき場所を整理します。スマートエイトは生成AI研修と開発受託で、資料作成そのものを扱う演習を何度も回してきました。

結論として、スライドは「そのまま社内レビューに出せた」のが43.3%どまりでした。そして表計算では、体裁の検査は全モデルが100%通過するのに、全項目が正しかったのは4〜6割です。手直しを減らす鍵は、プロンプトを磨くことではなく、どの工程を人が見るかを先に決めることにあります。

何が公開されたのか|資料作成AIの歩留まりが初めて数字で出た

43.3%とは何の数字か

この数字は、OpenAIが公開したModel MLの事例に載っている実測値です。Model MLは金融向けにAIで資料を作る製品を持つ会社で、複数のモデルに同じ財務の課題を与えて比較しています。

評価の流れは、最初の依頼文から調査と計算を経て、編集できるPowerPointやExcelのファイルを作らせるところまでです。そのうえで数字・出典・数式・構成・見た目を採点しています。

43.3%は「professional-readiness gate」と呼ばれる関門を通った割合です。作り直さずにそのまま人のレビューへ回せる状態だったか、という判定にあたります。裏を返せば、残る56.7%は誰かが手を入れないと先へ進めなかったことになります。

この数字をそのまま自社に当てはめられない3つの理由

読み方には注意が要ります。都合よく受け取ると判断を誤ります。

  • これはModel ML社の自社評価であり、第三者機関のベンチマーク*ではありません
  • 掲載先がOpenAIの顧客事例ページなので、OpenAIに有利な結果が選ばれて出る構造があります
  • 同社独自の書類生成の仕組みを通した数字であり、ChatGPTの画面で同じ操作をして同じ結果になる保証はありません

試行回数も「数百件のスライド」としか書かれておらず、正確な件数は公開されていません。

それでも見る価値があるのは、複数のモデルを同じ条件で並べた表が丸ごと出ているからです。絶対値ではなく、モデル間の差と項目間の差を読むぶんには十分に使えます。

*ベンチマーク:同じ課題を複数の対象に解かせて性能を比べる試験のこと。ここでは各AIモデルに同じ資料作成を依頼して採点しています。

スライド|差が出るのは見た目ではなく「最後まで出てくるか」

総合1位のモデルが、レイアウトと図表では負けている

PowerPointの結果を並べると、直感に反する形が出てきます。

項目

GPT-5.6 Sol

Opus 5

Fable 5

GPT-5.5

そのままレビューに出せた率

43.3%

26.7%

32.0%

16.0%

.pptxファイルが出てきた率

100%

76%

82%

74%

レイアウト・構成

75.9%

78.8%

78.7%

67.8%

図表の読みやすさ

78.8%

83.1%

79.7%

68.4%

総合で1位のGPT-5.6 Solは、レイアウトでも図表の読みやすさでもOpus 5に負けています。それでも「そのまま出せた率」で16.6ポイント引き離しました。

理由は3行目にあります。ファイルが最後まで出てくる率が100%対76%で、24ポイント違うのです。作業の途中で止まってしまえば、見た目が優れていても資料は手元に残りません。

つまり資料生成でモデルを選ぶときに効くのは、きれいさではなく完走率です。世の中では「見栄えのいいAIを選ぼう」と語られがちですが、実測の差はそこではありません。

指示追従はどのモデルも74〜79%で横並び

もうひとつ目を引くのが、依頼文をどれだけ守れたかを示す項目です。GPT-5.6 Solが78.8%、Opus 5が77.9%、Fable 5が78.5%、GPT-5.5が79.6%と、ほぼ差がありません。

この4つの幅は2ポイントもありません。表に出していないGPT-5.6 Terraを含めた6モデル全体で見ても、最も低い値が74.1%です。世代が2つ違っても、指示を守る力は6ポイントに満たない幅へ収まっています。

差が開いていたのは、レイアウト・図表の読みやすさ・視覚の階層という、見た目の構造にあたる項目でした。

だからプロンプトを磨いても埋まらない差がある

この2つを合わせると、実務での打ち手が変わります。

依頼文で動かせる部分、つまりプロンプトの工夫が効く部分は、すでにどのモデルでも8割近くまで来ていて頭打ちです。ここを磨いても伸びしろは数ポイントしかありません。

一方で差が残っているのは、文字の大きさの揃い方や図の置き方といった、依頼文では指定しきれない領域です。スマートエイトが研修で「AIが作ったスライドはレイアウトが独特で、顧客にそのままは出せない」と伝えてきた部分が、まさにここに当たります。

競合記事の多くは「プロンプトのコツ」を解説しています。ただ数字を見る限り、手直しが発生する主因はプロンプトの巧拙ではありません。指示ではなくファイルの側で品質の下限を上げる方法は、AIで作ったLPがダサくなる原因|Claude Codeで改善する3つのファイルで扱っています。

表計算|体裁は全モデル100%整うのに、全項目正解は4〜6割

「エラーなし」と「数字が合っている」は別の検査

Excelの結果は、スライドとは違う危うさを示しています。

項目

GPT-5.6 Sol

Opus 5

Fable 5

Opus 4.8

構造・エラーなし・空欄なしの検査

100%

100%

100%

100%

期待した出力が見つかった率

100%

100%

100%

92.2%

主要な数値の正確さ

83.3%

82.8%

80.6%

74.4%

全項目が正しかった率

50.0%

60.0%

60.0%

40.0%

1行目は全モデルが100%です。ファイルの構造が壊れておらず、計算エラーの表示もなく、埋め忘れの空欄も残っていない状態が、必ず作られています。

ところが最終行を見ると、必要な数値がすべて正しかったのは4割から6割です。体裁の検査を100%通り抜けたファイルのうち、4割から6割は数字のどこかが合っていません。

ここでもGPT-5.6 Solは、スライドと逆にOpus 5へ10ポイント負けています。「資料作成に強いAI」というひとくくりの評価が成り立たないことが分かります。

見て分からない誤りをどう見つけるか

この構造が実務では厄介です。開いた瞬間に分かる失敗、たとえば表が崩れている、数式が文字列になっている、といった症状が出なくなりました。

一目で気づける失敗がなくなると、人は「できている」と判断してしまいます。実際に間違っているのは、整った見た目の内側にある数値です。

スマートエイトが請求書や月次の点検を扱うときに「金額はAIに数えさせず、集計はコードで出す」という分担を勧めているのは、この性質があるからです。詳しい工程の分け方はClaudeで請求書の突合を自動化する方法|人が必ず止める3つの工程にまとめています。

*コードで出す:表計算ソフトの数式や短いプログラムで合計や差分を計算させること。同じ入力なら必ず同じ答えが返るため、検算に向きます。

人が見る場所を決める|資料の種類で検査を変える

スライドと表計算で見る場所は違う

歩留まりの構造が違う以上、確認の仕方も分けたほうが速くなります。

資料の種類

AIが安定して作れる部分

人が必ず見る部分

スライド

構成・文章・依頼への追従

図の置き方、文字の大きさ、グラフの読みやすさ

表計算

ファイル構造、数式の形、空欄の有無

数値そのもの。特に集計と参照先

スライドは見れば分かる部分が残っているので、最後に人が通しで眺める運用で足ります。表計算は逆に、眺めても見つかりません。検算の手順を別に用意する必要があります。

効率が上がる場面は「量」に寄っている

同じ日にOpenAIが公開した2社の事例を見ると、成果が出ているのは精度ではなく処理量の側でした。

Zapierの事例では、途中で離脱した見込み客1件を調べるのに35〜45分かかっていた作業を、月に数千件規模で回せるようにしています。人手では最初から不可能だった量です。

Virgin Atlanticの事例でも、競合他社の調査が数週間から数時間になったと説明されています。Model MLの事例でも、1枚もののレポート作成が約60分から約5分へ短縮した例が挙げられています。

いずれも「人がやると時間がかかりすぎて手を付けられなかった作業」が動き出した話です。逆に、そのまま提出する完成度を求めた瞬間に、歩留まりの壁へぶつかります。費用対効果の測り方は生成AIの費用対効果を測る4つの問い|OpenAI CFOの採点表の使い方で扱っています。

明日から試す3つの手順

自社で確かめるなら、次の順番が早いです。

  • 手順1|直近で作った資料を1つ選び、同じ依頼文でAIに作らせます。所要時間ではなく「どこを直したか」をメモします
  • 手順2|直した箇所を「文章」「見た目」「数値」の3つに仕分けます。見た目と数値に偏っていれば、プロンプトの改善では解決しません
  • 手順3|数値の直しがあった場合は、その計算だけを表計算の数式か短いプログラムに置き換えます。AIには理由の説明を書かせます

3回ほど回すと、自社の資料でどこが崩れるかが見えてきます。そこが人の検査を残す場所です。

よくある質問|資料作成AIの精度について

ChatGPTで作った資料は結局そのまま使えないのですか

用途によります。社内の共有や下書きであれば、そのまま使える割合はかなり高いです。

今回の43.3%は「専門家のレビューに回せる財務資料」という高い基準での数字です。投資委員会向けの資料と、部内の進捗共有では求められる水準が違います。自社の提出先を基準に判断してください。

有料プランにすれば精度は上がりますか

モデルが変われば結果は変わります。ただし今回の実測では、上位モデルでも「そのまま出せた率」は43.3%が最高でした。

プランを上げると変わるのは、使える量と選べるモデルの幅です。手直しがゼロになるわけではありません。

どのモデルを選べばいいですか

作るものによって答えが変わります。スライドを量産するなら完走率の高いモデル、財務モデルのように数値の整合が重要なものなら全項目正解率の高いモデルが向きます。

今回の実測では、その2つで首位のモデルが入れ替わっていました。1つのモデルにすべてを寄せない前提で選ぶほうが安全です。

AIが作った表計算の誤りはどうやって見つけますか

目視での発見は期待できません。体裁の検査を100%通過してくるためです。

現実的なのは、検算の仕組みを別に用意する方法です。合計・前月比・参照先の3点を数式で自動計算し、AIの出力と突き合わせます。差が出た行だけを人が見ます。

AIに任せる業務の切り分け方は、スマートエイトの生成AI研修でも実際の資料を題材に扱っています。→ 生成AI研修の詳細

さいごに

本記事では、OpenAIが公開した実測値をもとに、AIが作る資料の歩留まりを整理しました。スライドはそのままレビューに出せたのが43.3%で、差を生んでいたのは見た目ではなく最後までファイルが出てくる完走率でした。表計算は体裁の検査を全モデルが100%通過する一方、全項目が正しかったのは4〜6割です。

「AIに資料を作らせているが手直しが減らない」「どこまで任せてよいか判断できない」という状態にある企業にとって、見るべきはプロンプトの書き方ではありません。資料の種類ごとに、人が検査する場所を先に決めることが打ち手になります。

スマートエイトの生成AI研修では、自社の実資料を題材に、どの工程を人が持つかまで設計する演習を行っています。企業規模・業種に合わせて構成できます。

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